MCAP-CR
多自由度バスレフ型研究所
Audio Engineering Laboratory




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スピーカー再生技術(9)-ダブルバスレフ型が普及しない理由

 ダブルバスレフ型は、シングルバスレフ型の拡張型なのに、なぜ普及していないのでしょうか?シングルバスレフ型よりも、優れているはずなのにおかしいとは思いませんか?

 ここから書く内容は、私の推定に基づくものなので、違う意見も多いと思います。しかし、ここを明確にしていかないと、バスレフ型を一般的に拡張することのメリットを見つけることはできません。

 ダブルバスレフ型が普及しない理由については、下記の理由があると思います。
  1. ダブルバスレフ型で実現する帯域(低域の再生限界)を必要としている人は少ない。
  2. エンクロージャの製作にコストがかかる割に、スピーカーユニットを増やせないので高級感を演出しにくい(とメーカーが考えている)。ユーザー側から見れば、スピーカーユニットが多く大きいほうが高級感があると思う人が多い。
  3. ユーザーやメーカー、評論家などの多くは、低域を評価するときに、『質』ではなく、耳で感じる『量』を重視している。
  4. ダブルバスレフ型の良い作例が少なかった。
 私はオーディオ業界のことをよく知っている訳ではないので、異論は多いでしょうが、概ね以上のような理由があると思います。

 それでは、以上に挙げた個々の項目について、私の考え方を以下にまとめました。


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(項目1)ダブルバスレフで実現する帯域を必要としていない人は多い

 低音とはどういうものなのか、定義が明確であるとは云えません。特に、システムコンポやラジカセの販売促進のために多用された『重低音』 という言葉がユーザーを混乱させました。故長岡先生も、このことについてよく論じておられましたし、先生自身、重低音という用語は使われませんでした。し かし、実際には、100Hz程度までしか出ていないものを、重低音再生システムだと勘違いする人は少なからずいます。100Hz位だったら、8cmフルレ ンジユニットを使ったシングルバスレフ型で十分に出せるので、それで満足していれば、ダブルバスレフ型は不要だといえます。

(項目2)高級感を演出しにくい

 ダブルバスレフ型にして、箱を大きくするよりも、ウーファーが所狭しと付いているほうが、カネが掛かっているように感じる人は実際に多いと思います。マ ルチウェイでのコストは、実際にはスコーカーやツィーターのほうが大きかったりするのですが、大きいほうが高価に感じられる人は実際に多いでしょう。箱に ついては、スピーカーも安物のカラーボックスもその違いが分かる人は少ないかもしれません。箱の働きの重要性を理解すれば見方が変わるかもしれませんが、 なかなかそうはならないでしょう。

(項目3)低音の質よりも、耳に感じる量を重視する

 私は、中学生の頃、ポピュラー音楽を聞くのに抵抗がありました。低音が、ボンボンと 一本調子で、不愉快に耳についたためです。オーディオショップで聞くポピュラー音楽を聞くと、高価な装置でも、システムコンポでも同じように聞こえ、一体 どこが良いのかと思っていました。それから案十年も経って、多自由度バスレフ型をつくってみるまでは、その理由に気付きませんでした。
 その答えを教えてくれたのは、ゲテもん工作実験室の松さんの一言でした。あるシステムの音を聞いて、『これでは、ベースの音程を写しとることはできな い』との一言でした。確かに、MCAP-CRで聞くと、ベースの音程は明確に分かりますが、全然分からないシステムがあります。この、ベースの音程が分か らない、というのは、単純なシングルバスレフ型の欠点であることが分かりました。このことは、私の日記にも書きました
 しかし、低音については、音程よりも雰囲気を重視する人が多いのでしょう。そうでなければ、上記の日記に書いたような状況にはなっていないと思います。

(項目4)ダブルバスレフ型の良い作例は少なかった

 ダブルバスレフ型の起源がどこにあるのかは調べてもよくわかりませんでしたが、最も影響を与えたのは長岡先生だと思います。先生の設計法では、副空気室 の容量を大きくとります。このため、共振周波数間が広くなりやすく、その結果ディップとなる帯域が出やすいのが欠点でした。この点を捉えて、長岡式はダメ だ、と鬼の首を取ったようにいう人がいますが、私はそうは思いません。長岡先生には、別な理由があってそのように設計していたのだと思います。
 私の想像による長岡先生の設計法の理由その1は、ディップが出ても構わない場合が多いと先生自身が感じておられたことです。上記のように100Hzも出 れば、重低音が出ていると喜ぶ人がいるのですから、その下にディップができたって問題ではありません。そこに、ある帯域でピークが出れば、そこに低音の味 付けができるのですから、効果としては十分にあります。これは、目的の違いであって、設計が悪かったと決め付けるのは間違っています。
 そして、その2は、長岡先生の設計法によると計算式の誤差が小さくなるためです。ダブルバスレフ型は、2つの空気ばねと振動板を含む3つの質点によって 構成されます。そして、これらが連成して振動するので、共振点を探すにはちょっとした計算が必要です。しかし、計算式が複雑で、当時は表計算ソフトも普及 していなかったので、この式を、本に掲載しても、電卓で正しく算定するのは困難であったと思います。そこで、長岡先生は、連成振動の要素を少なくして単純 なモデルを目指したのだと思います。その結果、実用的な公式と、長岡式の設計法がまとまったのだと、私は考えています。
 あえて云えば、作例が悪かった訳ではなく、結局、好みに合わない人が口うるさかったので、悪いと決め付けられたのではないかと思います。

 以上、ダブルバスレフ型が普及しない理由を書いてきましたが、自分自身ダブルバスレフ型を推進することはありません。MCAP-CR型が標準化され、ダブルバスレフ型の欠点を補うことができたので、ダブルバスレフ型に拘る理由はなくなりました。

 次回は、MCAP-CR型ではなく、バスレフ型の直列への拡張型について、考えたいと思います。

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