Project MCAP-CR

多自由度バスレフ型研究所

Multiple-Degree of Freedom Bass-Reflex Laboratory


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オーディオ放言(4)


エンジニアマインド
2015/10/28
オーディオのタブーを斬る(2)
2015/5/7
オーディオのタブーを斬る(1)
2015/2/2
ニューラルネット型
2014/12/17
我輩は左翼であるがサヨクではない
2014/12/14
バスレフの設計
2014/12/10
伝達関数論
2014/11/02
どうしてイジメるひとがいるのかな
2014/09/10
オーディオ評論家
2014/08/23
アンプで音が変わる要素
2014/05/21
特許始末記
2014/05/21

アンプで音が変わる要素

オーディオの科学というサイトの存在を私のサイトでも紹介しています。
『オーディオの科学』というキーワードで検索したところ、同サイトを批判しているウェブサイトを発見しました。
批判している内容は、ブラインドテストから始まり、アンプで音が変わる理由などでした。
特定のサイトを批判するのは私の意図ではありませんので、そのリストはここには記載しませんが、 内容について触れてみたいと思います。

まずは、ブラインドテストです。
そのサイトで紹介していたのは、過去に音楽の友社のStereo誌の記事で、ブラインドテストと称して、 マニアを集め、超高級機から、安物のデジタルアンプまでを集めた比較したレポートです。
これは、某オーディオ評論家が執筆したもので、被験者は読者等でした。
そこで問題になったのは、A社の超高級アンプが最下位になったことです。
某評論家のレポートは私も読んでいますが、そのレポートには本質的なことが書かれていなかったので、 なぜ、そのような結果になったかは、意見が不明確でした。
このサイトでも度々書いてたように、音が変わると感じるのに最も重要な要素は、音量を揃えることです。
その記事には、音量を揃える方法が書かれていなかったので、ブラインドテストとは言いながら、音量という 最も重要な条件が揃えられていなかったのではないかと推定します。
音量を揃えるのは、決して簡単ではありません。
A社の超高級アンプは、ダンピングファクターが十分に高く、また、スペックに対する設計に十分なゆとりが あると考えられるので、どの周波数に対しても、同じ増幅率を保つことが出来たはずです。
それに対して、ダンピングファクターが高くなかったり、スペックに対して十分にゆとりのない製品においては、 周波数によって増幅率が違います。
このことは、周波数特性が変わる、という問題と、音量を合せることができないという問題を引き起こします。
ガラパゴスの会で、実施した試験においても、周波数が異ると、出力電圧が大きく変わってしまう製品は、 比較から除外しました。
実際に中国製の真空管アンプでそのような特性のものがありました。
こうした、理想と離れている製品を使うと周波数特性が変わるので、特定の人の好みに合ってしまう ことがあります。
スピーカーシステムについては、周波数特性がシステムごとにかなり違うので、条件を合せることが困難ですが、 アンプについては、条件を合せることは難しくありません。
先に記したStereo誌のテストでは、音量が揃っておらず、おそらく、音量の大きな順に順位が付いたのでしょう。

上にダンピングファクターという用語を使いました。
ダンピングファクターとは、出力インピーダンスを負荷インピーダンスで除した値です。
スピーカーシステムのインピーダンス特性が完全にフラットな場合には、ダンピングファクターの差が、 音の差となって検出されることは理屈上ありません。
しかし、スピーカーシステムのインピーダンス特性はフラットではないので、ダンピングファクターが小さいと、 インピーダンス特性によって周波数特性が変わります。
最初に引き合いに出したサイトは、アンプの音の差はダンピングファクターであると主張しています。
そしてダンピングファクターが高いとつまらない音になると書かれています。
こうした個人の趣向による定性的な意見は、個人の意見として尊重して良いのですが、それが全てではありません。

アンプの理想は、スペックの範囲内で、要求された電流を要求された量だけ出力することです。
実際には、電流ではなく電圧を要求されるのですが、スピーカーシステムのような低インピーダンスの負荷を掛けると 電流供給能力が充分でないアンプは、出力電圧が下がってしまいます。
このことは、負荷に応じて出力を出すという理想から外れてしまいます。

アンプの理想モデルは、断面積の大きな給水塔のすぐそばでで水を供給するモデルと類似しています。
給水塔の断面積が小さいと、供給水量の変化が、即座に、給水塔の水位の変動になります。
水位が変わると、供給水圧が変わるので、給水量は不安定になります。
それに対して断面積が十分に大きければ、多少給水負荷が変わっても安定して水を送ることができます。
給水塔モデルで重要なことは、給水負荷のポイントまで、十分に太い管で配水しているかどうかです。
給水管が十分に太ければ、給水の水の流れの抵抗が小さいので安定して配水することが可能です。
しかし、細ければ、水の抵抗が大きいので、思い通りに配水することができません。
これをアンプのモデルに置き換えると、

水位と塔の断面積=アンプの電源特性
流水量=出力電流
管路の損失特性+使用量=アンプの負荷特性
と書くことができます。

配管の太さと聞いて、電線の太さを想像する人が多いと思いますが、これは同じモデルにはなりません。
電流の流速は常に一定ですが、配管内の流速は、一定にはなりません。
そして、流速に応じ圧力損失特性が変わります。

さて、アンプの能力は理想的な給水塔モデルか、または、不十分な給水塔に、長い管路網があるか、 といった差になって現れます。
ですから、理想的なアンプは、負荷変動に強く、負荷が大きくなっても、アンプ側は常に負荷に応じた 働きをします。
これを突き詰めてゆくと、電源の強力な大出力アンプが正しい音ということになります。

実際には、負荷変動の量は、再生するソースの性質で決まるので、ソースによってはアンプの差が出ない ということになります。

このような差があるので、特定の条件で試験してもその差を検知できない場合が多いと思います。
ですから、自分が使用している機器が他で評価されなくても気にしないのが良いでしょう。


特許始末記

これもオーディオの科学のBBSを見て気になったことです。
同サイトのBBSは、特定のプロバイダからの書込を気にしていて、私が使用しているE-MobileのIPからは書込が出来ません。
ですので、こちらに一般的に感じることを書いてみたいと思います。

私は日本での特許を1件所有しています。
特許の成立にまでには、様々な方々にお世話になりました。
改めてお礼申し上げます。

それはさておいて、特許なんて出願の経験がなければ、何のことか分からないと思います。
どういう場合に特許として認められるのか、どうやったら特許がとれるのか、そんなことは、 経験以外に知ることは難しいと思います。
特許を取得するための情報収集として特許庁のウェブサイトをご覧になった方は分かると思いますが、 特許庁のページは体系的に書かれていません。
物事を説明するには、まず、根幹となる原則をひと通り示し、それから各論に入るのが普通です。
しかし、特許庁のサイトに行くと、例外の例外のまた例外みたいなものばかり説明されています。
一応、それらしい説明もあるのですが、自分の場合はどうかと思って調べると、詳細説明にたどり着いてギブアップします。
そして、何が根幹の情報であるかよく分かりません。
出願の書類にしたって、特許庁のリストには、可能性のある項目が全て書かれているので、 どれが必須なのか分かりません。
これは、いわゆる仕事のできない人の典型的なやり方でしょう。
こういうやり方を人に押し付ける人もいるのではないでしょうか。
それはさておいて、特許について知っている人を頼らずに、自分だけで特許を取得するのは、 以上の理由によって、ほぼ不可能です。
そこで、まずは知人を頼って情報を聴くか、なるべく安いところで、制限付きで見てもらうか ということになります。
自分の場合は、当時頼れる知人がいなかったので、後者を選びました。
これが失敗でした。
某事務所で、ん万円で、書類をレビューするというので、そこに依頼してみました。
格好つけて技術的に見当違いのことを書いてきたので、間違いを指摘しました。
そうしたら、素人にプライドを傷付けられたと思ったのか逆ギレされてしまいました。
はっきりいってこいうのはもうどうしようもないです。
こちらはカネを払った側ですが、どうしようもないので、ウェブで調べていたら、ある弁理士の 先生のブログのようなところを見付けました。
コメント欄に自分の経験を抽象的に書いたら、返事をくださいました。
そして、何と、自宅まで訪ねて来てくださいました!
その先生は、前の人とは全く違い、紳士で、ご自分の守備範囲を把握されている方でした。
『技術的な内容については、顧客が正しいことを前提にすすめる。 弁理士は、顧客の技術内容を全て知っている訳ではない。』
とおっしゃっていました。
この言葉は私を慰めてくれました。
さらに、私が最初にハマった弁理士について、一般的な話として『そういうことで、トラブルになる場合がある』 と、同業者として謝罪の言葉まで頂いてしまいました。
こちらこそ本当に申し訳ないと思っているのに。
その先生は、『自分が依頼を受けると高額になるから』と仰って、依頼を受けずにポイントだけアドバイス をくださいました。
ということで、出願までは、何とか漕ぎ着けたのですが。

さて、出願すると、一定期間経過後、特許広報に載ります。
自分の場合、先行技術調査不十分で、異議があるといけないので、公示期間終了ぎりぎりまで待ちました。
そして、何も異議がなかったので、審査請求の手続きに入りました。

単純な手続きミスの修正を経て(修正指示されるまで、何のことか分からなかったぞ!)。
しばらく待つと、拒絶の通知が来ました。
拒絶理由は、特許法の何条がどうたらとか書いてあるのですが、素人の自分にはさっぱり分かりません。
『この審査官日本語読めるのか?』
と思いました。
どう見ても他に解釈ないだろう、と思われる記述が、『何を指すのか不明である』とか書いてありました。
あとから、友人に聞いたら、『。』で区切ったら代名詞を使ってははいけないという決まりああるそうです。
特許審査官め、そう書けよ!と思いたくなります。
『何を指すのか不明である』ではなく、『代名詞を、複数の文にまたがって使用することは許可されない。』
と具体的に書くべきなのです。

で、友人に申立書を書いて頂き、補正手続きしたら、あっさりと査定となりました。
どうも有り難うございました。

ここで、つくづく思ったのは、特許審査官は、技術的には、何も見ていないに等しい、ということです。
あれだけ手数料ふんだくるんだから、技術審査もあるのかと思っていました。
わざわざ特許出願した理由のひとつは、技術審査して欲しかったためでもあります。
しかし、特許庁には、そんな機能はないと身を持って知りました。
マニュアル通りに処理してるだけです。
人が介在しなくても90%くらいは可能なのではないでしょうか?
正直言って、この程度の審査は誰でもできる、という印象を持ちます。

これから特許をとろうという方にアドバイスです。

技術的なことには、こだわらず、なるべく簡素なものにしましょう。
よほど阿呆な間違いでもしない限り、審査官が間違いを見付けることは無さそうです。
それと、どうせなら、オーディオ関連じゃないほうがお金になるような気がします。

残念ながらオーディオはカネにならない。
技術よりもマーケティングの世界である。


オーディオ評論家

とつぜん三十年以上前のことを思い出しました。
いまでも活躍されているン先生のことです。
当時は、福岡に住んでおり、K無線というオーディオショップを利用していました。
そのショップはもうすでに店仕舞いしていますが。
そこで、そのン先生のイベントがありました。
何かの製品を紹介していたのだと思いますが、その内容はさっぱり覚えていません。

肝心の部分が終わって質問コーナーになりました。
ある方が、『レコードプレーヤーの針圧は、軽くしてはいけないのですか?』

ン先生
困った感じで『軽いほうが負担をかけませんが....指定を守って使うほうがいいと思います。』

自分の心の声
『ン先生。違うよお~。』

材料力学などを勉強した方は常識なのですが、物体の歪の程度は、応力の状態によって決まります (詳細は専門的なので省きますが)。
応力というのは、圧力と同じで、そこにかかる力(内力も含む)を、受ける面積で割った値です。
この場合、針は、レコード盤(塩化ビニール)に対して十分に硬いので、ダメージを大きく 受けるのは、レコード盤のほうです。
レコード盤は、曲者で、応力を受けると変形するので、針との接触面積が増えます。
したがって、針圧を上げると応力が減ることがあります。
ここで問題なのは、振動で針が浮いてしまう場合です。
針が浮くと、次は、レコード盤に激突するので、これが、レコード盤を痛めます。
ですから、針が浮かない範囲で最も軽い値が針圧の最適値となります。
カートリッジのメーカーは、それに安全側に荷重を加えて、針圧の適正値を決めるものと思います。
直接メーカーの方から聞いた訳ではありませんが、それが物理的には正当な決め方です。
ですから、針圧を推奨値より下げると、レコード盤も針も痛めるリスクが増大します。

ということを、ン先生には解説して欲しかったなあ。

軽いほうが負担が少ないという思い込みは、間違っているので、まだアナログプレーヤーを 使っている方は、気をつけてくださいね。

そういえば、その頃に使っていたビクターのQL-Y3Fというプレーヤーが実家にありました。
なんとなく、マニア垂涎かもしれない、山水のAU-D707Xなんていうアンプもありました。

プレーヤーのほうは、ケンウッドのKP-1100というのに変えたら全く不要の長物になりました。 アンプは、かつては問題なく使っていたのですが、なんとなく不要になって埃をかぶったままです。
こういうレガシー機ってどうやって処分するのでしょうか?
いずれまとめて粗大ごみかなあ。

話は飛びましたが、ナントカ先生が、こう言っているから、という盲信は避けたほうが良さそうです。
いちばん信じるべきはご自身で研究した結果です。

自信がない人は、信用できる学者かエンジニアに訊きましょう。
インチキな学者やヘボなエンジニアもいないとはいえませんが。


どうしてイジメる人がいるのかな

『オーディオの科学』の掲示板を読んでいて考えました。
どうしてイジメようとする人がいるのかな。
自分が多自由度バスレフの研究開発に取組んできて分かったことはいろいろありますが、
いちばん良く分かったことは、皆数式には興味ない、
ということです。
技術者としての観点では、現象を記述するには、数式が必須の訳ですが、
数式よりも音という人のほうが圧倒的に多いです。
研究会の方々は、いろいろで、たぶん一般のオーディオマニアとはかけ離れた取組みの人が 多いですが、一般の人は、たいてい、自分の中に確立した、オーディオの価値観だけで 動いています。
価値観は、人それぞれなので、それが世の中の正しい動きでしょう。

ですから、あまり、他人の趣味・趣向を否定するはよくありません。
たとえば、自分が不思議と思う質問を受けたって、真っ向から否定するのではなく、 ちょっと手を差し伸べるくらいの、人間としてのゆとりがあったほうが、 楽しいと思うのです。

まあ、自分としては、音がいいとか悪いとか、そういう不確定要素の大きな評価より 数式で記述してゆく試行錯誤のほうが面白い訳で、 そこで、音がいいのか悪いのか、と詰め寄られたら引いてしまいますが...

自分が当然と思っていることを、自分とバックグラウンドが違う人に説明するのは、 それなりに難しいチャレンジなわけですが、 それを、そんなこと自分で調べろ!といきなり言ってしまっては、 そこで終わってしまいます。

自分も不完全な人間なので、予め敵意を持って近付いてくる人には、 それなりの対応をしますが、 教えてください、と云われると、がんばってしまいます。
そういう質問は、外国からのほうが多いです。
日本人は、恥ずかしがりやが多いのでしょうか。

自分は、オーディオを趣味とする人としては、かなり特殊な部類に入りますが、
そういう変わった人でも、交友関係はあるので、それで良いのでしょう。



伝達関数論

難しそうな、タイトルで始めてしまいましたが、簡単で、永遠の課題です。
2014年の、スピーカー再生技術研究会のオフ会で、assiさんにデジタルフィルタの 発表を頂きました。
その中の中心理論が、伝達関数です。

こんなことを考えるマニアはほとんどいないと思いますが、 こういう理屈っぽいことを考えると、オーディオ装置への支出を、節約できますよ。
長岡先生が20年以上も前に書かれたように、オーディオ業界は狂っている、という説もあるのですから。

さて、制御理論の講義を受けたことのある方なら(私は受けたことがないのですが) 伝達関数が、動的入力を動的出力に変換する関数であることが常識でしょう。
数学的な説明では、ラプラス変換とか畳込み積分とかが出てきて消化不良を起こした 人もおられるかもしれません。
自分は、制御理論の講義を受けたことがないので、必要に迫られて、自分で勉強しました。
ですから、いい加減な知識ではありますが、人が知らない実用的なことは結構知っていると思います。
それで、自分の理解では、伝達関数は、入力(原因)と出力(結果)との関係を結ぶ、 数学的表現です。
ここでは数学部分を追求しないで、伝達関数を、単に変化を伝える函数(ブラックボックス)として 考えましょう。

ここで、音楽が、人に感動(無感動や不快感のこともあります)を伝えるまでを、以下のように、 図にしてみました。


プロセスが、(A)から(L)まで、細かすぎると云われそうですが、 こうしたプロセスそれぞれ伝達関数であり、それらが合成されて、 音楽の感動や不快感を生み出すことになります。
ここで、入力は(A)です。
(A)に至るまでのプロセスにも伝達関数がありまが、そうすると、宇宙創成まで遡るので、 ここでは、入力を(A)ということにしましょう。

音楽愛好者が、音楽ソフトを求める理由は、(A)と(B)です。
音楽愛好者の自分に重要なのは、この部分です。
オーディオマニアという二重人格の自分は、(C)の空間と(D)の収録方法を重視します。

で、その他重視するのは、(I)のスピーカーシステムです。

本当のオーディオマニアなら、(J)の部屋を最重視しなければなりませんが、 こちらは、お金が無限にかかるので、無理です。
家業があったり、商才のある人は、是非ともここにお金をかかてください。

とすでに、結論めいたことを書いてしまいましたが、 音楽を楽しむ愛好者として、重視する順番は、以下のようなものでしょう。

  1. (A)楽譜=曲目
  2. (B)演奏
  3. (L)脳
  4. (J)部屋
  5. (I)スピーカーシステム
  6. (H)アンプ
  7. (G)プレーヤー(デジタル音源の場合です)

(L)の脳というのは、なんだ?と云われそうですが、ここは重要な部分です。
まず、知識があれば、音楽を深く楽しむことができるし、
譜面を読めれば、普通に聞いたら気付かない音が聞こえてきます。
耳では聞き取れない微妙な音楽表現を知識で補うこともできます。

(C)-(F)は自分ではどうにもならないので、あきらめるしかないでしょう。

そして、上記のような重要な点をあえて無視して、音に影響する部分を、 まとめると以下の通りです。
ただし、記録方法はデジタルに限ることを前提とします。
異論があることを覚悟して書きます。

  1. (D)収録方法
  2. (C)空間(ホール)
  3. (J)部屋
  4. (H)スピーカーシステム
  5. (F)コピー

以下は微々たる差しかないので、順位付けが困難です。
(E)の記録方法は、デジタルの何ビット、サンプリング周波数等で変わりますが、 結局、(F)のコピーに吸収されてしまうので、有意差を見るのは困難かもしれません。
(D)の収録方法は、
どのようなマイクロフォンを使うのか、
どのようにマイクロフォンを配置するのか、
何チャンネル記録するのか、
エンジニアの手法によります。
カラヤン以降発展したマルチチャンネル収録の2チャンネル合成法では、 結局、制作会社の音造りの問題になります。
長岡先生は、こうした収録方法を、マルチモノと呼んでいました。
マルチモノの録音を聞くのであれば、(C)の収録空間はあまり意味がなくなります。
ですから、こうした伝達関数の議論の重要部分がなくなってしまい、 面白くないと感じる人もいるでしょう。
自分もそうしたひとりです。
特に、クラシック曲の録音を壊したのは、カラヤンだと思っています。
ですから、カラヤンの感性には、あまり魅力を感じません。
オーディオについて今のように考えるようになるには何十年もかかりましたが、 子供の頃から考えていたカラヤンへの違和感がここ何年かで納得できるようになりました。

伝達関数で表した図の中に、ケーブルやピンコードの類が入っていません。
なぜなら、他の伝達関数と比べると取るに足らない効果しかないからです。
ケーブルやピンコードの効果が発揮されるのは、伝達関数図の中の(L)脳、の部分です。
『某先生が絶賛したから』、『オーディオ店で薦められたから』、『みんな使ってるから』...
こうした精神的要因は、(L)の部分に大きく影響するから、何をやっても音は絶対に変わります。

脳の影響を取り去って、ある要因で、 本当に変わるかどうか確かめたかったら、子供に手伝ってもらうといいでしょう。
できたら、オーディオに対する価値観がなく、お金の価値もよく分からない子供がいいでしょう。
音量を厳密に合わせることだけに注意して、差を感じるかどうか意見を言ってもらってください。

やっぱり子供も分かる差があるなあ...
やっぱり子供では差が分からないなあ...

ちなみに、ふつうは、子供のほうが耳がいいはずです。

さてさて...


バスレフの設計

バスレフっていったいどのように認識されているのか気になっていくつかのページを 覗いてみました。
多いのは、

  • バスレフの設計は簡単
  • 設計計算ソフトを利用
  • パラメータが云々
  • ...
  • といった類でした。
    間違ってるという訳ではないのですが、原理の説明はきわめて少く、 このままやっても10年同じだろうな...
    という説明が多いです。
    技術者としての観点では、やはり、数式で記述してほしいところです。
    密閉やバッフルは、自由度がひとつなので数式の記述が簡単ですが、
    バスレフは二つになるのでちょっと面倒です。
    その面倒臭さを乗り越えれば勢いで工学部を卒業できるぞ!
    と思うのですが。
    既存の説明で物足りない方は、このページのマイナーオーディオ講座を読んで、 GUIのシミュレータを動かしてみてくださいね。
    CUIのほうが高機能ですが、現在更新中です。

    聞きかじりで表面だけ覚えても間違いの元です。
    役に立つ情報は自分で探さなければなりません。
    すらっと入ってくる情報はゴミばかりかもしれませんよ。

    関係ありませんが、皆さん、投票にはいきましょうね。
    情報はウェブにたくさんありますが、テレビや新聞は、どこかの特定政党が 有利になるよう情報操作していると思って間違いないです。

    やはり自分で調べなければなりません

    我輩は左翼であるがサヨクではない

    前回、投票に行きましょう、と呼びかけました。
    さて、皆さん投票には行かれましたか?
    突然、政治の主義主張みたいなことを書きましたが、実を言うと私は特定の政党を 支持しているわけではありません。
    左翼なんていうと、共産党や民主党の支持者かと思われそうですが、
    全然そんなことはありません。
    Wikipediaの英語版でLeft wingを調べると、階層社会はない、 自由・平等な社会を求めるのがLeft Wingだそうです。
    あれ?
    ということは、ほとんどの人が左翼になってしまうじゃないか!
    なんてことになるわけです。
    日本で言われている右翼とかネトウヨなんていう用語は、
    マスコミが、サヨク利権を押し進めるためのネガキャン用語
    だと思っています。
    愛国者や保守と呼ばれる人たちに、
    階層社会を望む人が果たしてどれだけいるのでしょうか?

    祖国を愛する気持ちに右も左もありません。
    いやなら移民すればいいわけです。
    移民が難しいという気の毒な問題もありますが。

    むしろ、サヨク政党のほうが階層社会を進めているように見えます。
    たとえば、中国共産党とか、北朝鮮とか。。。

    こんな具合に、
    今の価値基準は、マスコミが、時間を掛けてつくってきた虚構である
    といっても過言ではないのではないか、と思います。

    さて、自分は、上に書いたように正統的な左翼ですから、
    人に縛られたり、人を縛り付けたりするのは、好みません。
    自由・平等が主義ですから、どこそこの政党に投票しろとか、
    人に押付ける気持ちはまったくありません。
    自分の主張は、騙されずに自分で考えて選ぼうということです。
    そしてその結果の選択を尊重します。
    だから、投票に行こう、とは書きましたが、どこの政党を応援します、 とは書きませんでした。

    自分のオーディオ観は、この自由平等を目指す、左翼精神に支配されています。
    ですから、他人が作った価値観に惑わされずに自由にやってみようと思うわけです。

    既存の価値観に縛られるのは、サヨク思考そのものです。
    価値観を作り上げて、あるいは、誰かが構築した価値観を盲目的に信じ、 その価値観を前提に、徒党を組むなんて、まさしくサヨク的ではないかと思うわけです。

    ですから、スピーカー再生技術研究会は、
    イベントに参加するのに会員資格は必要ありませんし、
    会員かどうかの確認もしていません。
    会員名簿も一応はありますが、連絡先はメールだけだし、
    とりあえず、居住都道府県を、書くだけです。
    メーリングリストに登録するだけの人もいます。
    メーリングリストがあったほうが、連絡が便利というだけです。

    特定の思想にハマルと、自由・平等が成り立たなくなると恐れています。
    嘘・偽りがなければ何でもOKです。

    と、日ごろから思っていることを、総選挙を機会に書いてみました。


    ニューラルネット型

    ニューラルネット型...新しいスピーカーシステムの方式ではありません。
    1980年代から1990年代に流行ったものにニューラルネットワークとか、ファジーというものがあります。
    ファジーは、曖昧というように曖昧に理解されていますが、実際には曖昧でないロジックで、 曖昧さをシミュレートしたものです。
    ニューラルネット(正しくはニューラルネットワーク)には、『神経回路網』という日本語表記があります。
    詳細は抜きにして、ニューラルネットを端的に表現すると、神経回路網の応答を表現する数式モデルです。
    で、どうしてそんなものが流行ったかというと、ニューラルネットを使って、パターン暗記ができるからです。
    パターン暗記する方法をトレーニングといい、過去データを与えると、それを覚えるよう数式の定数が 変わっていくアルゴリズムです。
    ニューラルネットは、いいかえればパターン暗記のアルゴリズムと云ってよいでしょう。
    正しい結果を与えれば利口になるし、間違った結果を与えれば馬鹿になります。
    ニューラルネットが廃れた理由は、研究者の相当数が、用途の性質に着目せず、 性質の違うデータをごちゃごちゃに与えて、モデル構造そのものを開発しようとしたせいだと思います。

    さて、ニューラルネットの対極に、物理化学モデルがあります。
    自分が研究している多自由度バスレフも物理化学モデルの一例です。
    基礎式を元に、プロセスの応答を計算するのが物理化学モデルです。

    私は以前にニューラルネットを使って仕事をしていたので、ニューラルネットには、こだわりがあります。
    それは、料理人の包丁のようなもので、上手に使いこなせばいい仕事をするし、
    誤って使えば致命的な誤りを引き起こします。

    どうして、ニューラルネットについて書いたかというと、ニューラルネット型人間が目に付くからです。
    人間の最大の特徴は、創意工夫が得意なことだと思いますが、
    相違工夫を捨て、経験の中だけに生きる、
    そんな感じの人をいろいろなところに見かけます。
    中世の時代ならいざ知らず、現在はそれなりに科学技術の基礎のうえに作られています。
    ですから、科学技術を使わない手はありません。
    科学技術を無視して経験だけで、価値判断をする、
    科学的アプローチを否定する、
    こういう趣向を見ると寂しい感じがします。

    さて、ニューラルネット型人間の特徴が良く分かるのが、ブラインドテストに対する議論です。

    以前にガラパゴスの会と称してブラインドテストに挑戦したとき、 私は、厳密な試験は無理だ、と書きました。
    厳密に条件を揃えることは絶対に無理です。
    しかし、だからといって、ブラインドテストに意味がないという結論にはなりません。
    知りたいのは、先入観を排除した状態で、比較対象のものが違って聴こえるかどうかです。
    価値観を作り上げて、あるいは、誰かが構築した価値観を盲目的に信じ、 その価値観を前提に評価するのが、正しい方法なのかという命題への挑戦です。

    上記のブラインドテストは、アンプを対象にしました。
    操作を担当した私は、それぞれのアンプの差を感じていました。
    やはり高額なアンプの音のほうが滑らかに聞こえました。
    それでも、ブラインド状態の被験者の皆さんには、差が小さく感じたようです。
    こつが分かればある程度差が分かったそうですが、 そういう差の聞き分けの訓練ができていないと、 どちらでもいい程度の差だったようです。
    実際に操作して、差を感じていた私も、僅かな違いと思いました。

    最も大きな問題は、結果に対し、実験に参加していない人からクレームが付いたことです。
    かなり高額なセパレートアンプと、最低価格のプリメインアンプとを比較したため、 結果は衝撃的でした。
    同じ機種を連続して鳴らしても違うように聴こえたり、
    高額なアンプに切り替えても差がないと感じたり、
    人間の感覚って、そこまでピンポイントに差を感じるなんて無理なのか、
    アンプには値段は関係ないのか、
    と思わせるほどの結果でした。

    クレームを付けた人は、差が分からないなんて、試験方法が不適切で、 本質的なことが分かっていない、という主張でした。

    スピーカー再生技術研究会の掲示板では、このクレームに対して非難の声があがりました。

    実際に参加した人は、文句言うならお前がやって発表してみろ、
    と、議論はすれ違いにしかなりませんでした。
    実験に参加いていない人からも、クレームの指摘に対しての誤りの指摘が多々出ました。

    そりゃそうです。
    全く同じ条件で試験するなんて、絶対に無理です。

    ケチを付けた人は、自称専門家だそうですが、
    技術的な誤りが指摘された他、重要なポイントを外していました。
    なにより、批判は定量的ではありませんでした。

    アンプの比較は、通常自宅で使用する程度の出力で、行いました。 すなわち、実際の平均出力は1Wよりもずっと下です。
    アンプの限界性能試験を実施した訳ではありません。

    限界試験を実施すれば出る差も、通常試験では出ないということがあります。

    この試験を、自動車の比較に例えると、
    高級乗用車と普及車の走りを、信号のある街中で、安全・省エネ運転して比較したようなものです。
    差が出ないとか、普及車のほうがパフォーマンスが高いことがあっても不思議ではありません。
    乗用車は、高級品のほうが乗り心地が良いでしょうが、走りは、街乗りでは大差ないでしょう。

    皮肉なことに、上記のアンプでは、普及モデルのほうが出力の大きなAB級だったので、 比較には不利でした。

    ある程度出力を出さなければ、半導体の直線性は、悪くなります。
    小音量には小出力のアンプのほうが有利です。
    出力の小さなA級アンプのほうが、直線性が優れているので、 原理的には有利です。
    それに、出力の大きな半導体素子を、低出力で使うと、素子の温度が上がりません。
    AB級アンプでは、せっかく素子の温度を上げても、音が小さいときに下がります。
    こうした機種同士の比較では、低級品のほうが不利な条件であるにもかかわらず、 それほどでもない差しかでませんでした。

    この試験に参加してから、アンプに対する考え方が変わった人もいたでしょうし、 当然の結果が出たと思った人もいたでしょう。

    操作を担当した私には、意外な結果でした。
    もっと大きな差が感じられるだろうと思っていましたので。

    どうしてこのようなことを長々と書いたかというと、
    上の、クレームを付けた人(どなたか存じませんが)が、 とってもニューラルネットタイプに感じたからです。
    ニューラルネット型は、経験だけで生きています。

    ですから、自分の経験と違う試験結果は受け付けず、感情的に対応します。
    理論は持ち出して来るのですが、定量的ではありません。
    定量的な議論をしないところが、ニューラルネット型の特徴です。
    ですから、議論はすれ違いになります。

    ニューラルネット型は、研究者でない人に多いタイプのようです。
    思い込みのすくない、物理化学モデル型の人は、 総じて淡々と反応します。
    おそらく自身の価値観が確立しているのでしょう。

    ランキングが好きな人にもニューラルネット型が多いかもしれません。
    大学ランキングとか見て人を判断するのは、おそらく、勉強していない人でしょう。
    価値観を人に決めてもらったほうが楽ですから。

    古美術の鑑定人は、本物を研究することによって、 偽者を見抜く力が養われると聞いたことがあります。

    オーディオは、工業製品なので、古美術鑑定のような知識・技能は不要です。
    すくなくとも、大手メーカーのオーディオ製品は、普及品であっても、 相当なレベルの品質管理がされています。

    ニューラルネット型の思考から、物理化学型の思考になると、 オーディオ趣味の幅がもっと拡がるのではないか、と思う今日このごろです。
    次世代のオーディオ趣味かな?


    オーディオのタブーを斬る(1)

    『タブーを斬る』という政党がありますが、そうしたタブー斬りは大歓迎です。
    ご他聞にもれずオーディオ業界にはタブーがあると思います。
    むしろタブーで成り立っていると考えてもよいでしょう。
    そんなタブーを斬ってみたいと思います。

    (1)オーディオは過剰スペックの趣味である

    ボトルネックということばがあります。
    その部分が原因となって、全体的な性能が出ない、ということです。
    そしてボトルネックを解消すれば、性能が向上します。
    ところが、オーディオ趣味では、ボトルネックでない部分にお金を掛けます。
    すなわち、投資しても効果が出ない。

    こんなことを主張すると、
    『一体何を言っているんだ?』
    と、怒られます。
    なぜなら、多くの人が、それで品質が向上すると信じているからです。
    もう信仰の世界と云えるでしょう。

    では、本当のボトルネックとは何か。

    第一が、部屋です。
    伝達関数論、というコラムで書いたとおり、 主要な伝達関数には、部屋があります。

    では、部屋の何が大切なのか。
    最も重要な要素のうちひとつは、大きな音を出せる、遮音性能でしょう。
    自分も経験がありますが、隣戸(アパートの隣の部屋)の話し声が聴こえるような部屋では、 原音と同等な音圧の再生は無理です。
    か細い音での再生に高性能オーディオは不要です。

    次に大切なのは響きです。
    響きがない部屋はありませんが、無響室では、響きがほとんどなく、 会話をするのも困難に感じるほどです。
    しかし、記録された音楽信号には、収録空間での響きが多少なりとも含まれており、 このため、響きを二重に加えることには、反対意見もあります。
    この論争は、どのようなソースを使用するかによるので、正解はありません。
    しかしながら、現在流通しているソースの殆どは、再生過程に適度な響きを付加しなければ、 心地よくならないものと思います。
    ちなみに、無響室の伝達関数は、1(無変換)ではなく、空間減衰のみの伝達関数であり、 スピーカーシステムとの距離が大きくなると、高域側周波数の減衰が相対的に大きくなります。

    もうひとつ重要なのは、部屋のサイズです。
    狭過ぎると心理的にも圧迫感があり、寛ぐことが難しいし、 物理的にも、距離をとることができません。
    録音によっては、距離をとらなければ高域が煩いものがあります。
    例えば、カラヤンの録音などは、狭い部屋向きではありません。
    私は、自分の狭い部屋では、カラヤンは煩くて聞く気になりません。
    そういう音が好きであればかまわないのですが。

    いずれにしても、部屋の条件がある程度以上にならなければ、 高性能オーディオに意味がありませんが、 オーディオ装置の性能が、部屋の欠点を補うかのように、錯覚させているフシがあります。
    その錯覚のために多額の投資をしている人が多いのが現状でしょう。
    自分の装置の音が悪い、と思っている人は、響きの良い部屋に持ち込んで聴くことができれば、 その装置の素晴らしさがよく分かるはずです。
    響きの良い部屋でも装置の差は出ますが、部屋の差に比べればずっと小さな差でしょう。

    今回は、ボトルネックの例として部屋について書きましたが、他にもあります。

    今後少しずつ書いていきます。


    オーディオのタブーを斬る(2)

    価格は価値を表さない

    『値下げするな。値上げしろ。』
    これはマーケティングの基本です。
    低価格志向のマーケティングも確かにありますが、 低価格志向は、既に破綻して来ています。
    そもそも何故高価なものが好まれるのか。
    時折、オークションでXXが何億円で落札されたとか、ニュースになります。
    これは、価格が価値を評価する指標になるからです。
    何千円程度で取引されていた美術品が、貴重品であることがわかり、価値が幾らだ、 という報道も見ます。
    価値があると分かった途端に高騰する。
    このことは、価値を評価する能力がなかったことを意味します。
    海外に行くと、よく、風景画とかを、お土産価格で売っていますが、 こういうものを買ってみて、結構気に入る場合と、 何か気になる点が出てきて、段々と捨てたくなることと、 その両方があります。
    この例なんかは、価値を自分で決めているので、健全なのですが、 他人に褒められたからご満悦、というのは、自分で価値を決められない証拠です。
    褒めて頂けば嬉しい顔をするのが礼儀なので、褒められて喜ぶことを否定はしませんが、 それだけに拠り所を見出すのでは、趣味とは云えません。
    もちろん、『なるほど。そんな見方もあるんだ。』という勉強にもなりますが。

    以上は趣味の世界のハナシです。

    では、工業製品の場合はどうなるか。
    工業製品の場合は、機能、仕様、品質の三点が重要な評価要素です。
    自分の所望の目的を果たさなければ意味がないし(機能)、
    所望の性能を果たさなければ、これも意味がなく(仕様)、
    メンテナンスにやたらとカネがかかっては困ります(品質)。

    オーディオ製品の場合、

    そこで再生される音楽への感動に、価値を見出すのであれば、 オーディオ製品は、工業製品として評価すべきです。
    その音楽、演奏(ソフト)に感動できるのであれば、装置なんてどうでもいいことになります。

    しかし、部屋のインテリアとして評価するならば、
    格好良くなければいけないし、
    訪問客が、感心するものでなければなりません。
    ということで、オーディオ製品は、工業製品としての側面と、趣味のインテリアとしての側面を持ちます。

    では、オーディオ製品が高価であるというのはどういうことでしょうか。

    価格について考える前に、仕様について考えてみましょう。

    デジタル機器においては、
    DA変換とAD変換において、何ビットの処理ができるか、
    また、演算速度に余裕があるか、
    など機能と仕様が性能の指標になります。

    アナログ機器では、歪率何パーセントか、出力何ワットかという指標があります。
    出力については、様々な評価基準があり、カタログも同列に比較できませんが、 慣れてくると同程度だとかかけ離れているということはわかります。
    仕様が同程度のものは、カタログで概ね分かるといって良いでしょう。

    スペックがほとんど同じようなアナログアンプを比較したら聞き分けが可能なのでしょうか?
    私の経験では、目を瞑れば判別不能と思います。

    よく、A社のアンプとB社のとでは音が違うなどと云われます。
    しかし、本当に音量を合わせて比較したのか疑問があります。
    各社ヴォリウムの癖が違うし、比較したときの条件も違うことが多いので、
    実際には全然違う比較だったりします。

    特に音量の差は評価に甚大な影響を与えます。
    比較の際に同じ音量にしたと思っていても、実際に、左チャンネルはA社、右チャンネルはB社、 というように接続してみると音量は相当違っていたりします。
    こうやって、左右を別々に繋ぎ換えて音量を合わせてゆくと、もうどちらがなっているのか、 分からなくなります。
    これは、価格に差のある製品だったり、プリメインとセパレートとの比較だったりしても、同様です。
    疑問を持つ方は、実験してみてください。

    しかし、なぜこのような結果になるのか。
    オーディオ創世記頃には、半導体チップの特性に相当の違いがあったようです。
    ですから、高級品の部品では、特性が揃ったものを選別したり、特性の良いチップを特注したりしていました。
    しかし、20世紀の末頃になると、ほとんどが汎用品のチップを使うようになります。
    しかも、半導体の製造技術が上がり、品質がどんどん揃ってくる。
    特定製品のための特注チップを作るのではコストに見合いません。
    結果として、高級品も低価格品も、同じようなチップや、汎用の基板を使うようになりました。
    ですから、回路の基幹部分は高価格品も低価格品も大差ないものになりました。

    それでも、電源回路には、コストによる性能の差があるので、一般家庭での使用より厳しい条件にすれば、 高級品の優位性が発揮されます。
    しかし、限界性能で使用することは、おそらく一度たりともないでしょうから、 限界性能を議論することは、実質的には意味がありません。
    マーケティングの世界では、良い印象を定着させるため、『ゆとり』という用語を使用します。
    オーディオ機器のゆとりは、住宅で例えると、宮殿に住むくらいの規模になるのかもしれません。
    そりゃ、50平米の住宅より60平米のほうが良いし、100平米、120平米とどんどんゆとりが増えて、 良くなるでしょうが、500平米、1000平米となると、今度は使用人を雇わなければならなくなり、
    理想からは返って遠のいていきます。

    オーディオの場合は、ランニングコストは電気代くらいですが、 故障修理の場合は相応の出費を覚悟しなければならないので、 故障したらコストがかかっても出費する覚悟が必要です。
    私の場合は最低価格品を使用しているので、壊れたら買い換えるという選択肢を選ぶことができます。
    例えば、CDプレーヤーには何千円かのDVDプレーヤーを使っているのですから、 故障修理より、買い替えのほうが出費が少ないです。
    それに、全然故障しないし。

    高価なCDプレーヤーも使用していますが、それは、義父から頂戴したものなので、 壊れたら修理しないでインテリアになると思います。
    上述のDVDプレーヤーと高価なCDプレーヤーとの音の違いは、よく分かりません。

    考えてみれば、自動車だって、限界性能で使用すれば、すぐにあの世行きになるのに、 高性能化を競っているし、
    ゴルフ道具とかも、道具の違いよりもウデの違いのほうが圧倒的なのに、道具に走ったりします。

    高価格というのは、有り難味を付加するためのマーケティングツール という側面も考えたほうが良いのでしょう。


    エンジニアマインド

    法学の世界にはリーガルマインドという言葉があります。
    リーガルマインドは一言で表すことのできない言葉のようですが、すごく簡単に言うと法律の適用に際し、 法律の本旨を守ったうえで、良心に基くことのようです。

    エンジニアマインドという用語は聞いたことがありませんが、 エンジニアにはエンジニアリングに基くマインドが必要だと思います。

    エンジニアリングの本質を理解し、決して、嘘・捏造をしないのは当然のことですが、
    この他にも、

  • 既知の事実と未知の仮説を区別する
  • 事実と意見とを明確に区別して使い分ける
  • あることが可能な場合の前提条件を明確にする
  • 定性的な用語を多用しない
  • 技術と技能とを区別している
  • というようなこともあると思います。

    かつて外国人上司と話していた時に彼が言ったことですは、
    セールスの場においても、エンジニアは、まず、出来ないことから説明するのだそうです。
    "XXは、YYのような前提条件が必要だから、これがなければ出来ない"
    のように、出来る場合と出来ない場合との条件を明確に説明する。
    例えば、様々な条件が全て満たされた場合に初めて可能になる。
    かつ、それらの条件を満たすには、難しい制約が付く。
    といった場合に、制約の説明をせずに、"出来ます"と言う人と、
    出来るための制約を全て満たささなければ出来ない、という人とどちらを信用できるでしょうか?
    私は、簡単に"できます"と言わないのがエンジニアマインドを持った人だと思います。

    エンジニアリングは、自然科学の原理に基き、完全には証明されていない事実も、 実用的に概ね信用しても問題なければ仮説として受け容れて、そうした事実に基いて、 実用的な適用を目指す学問の一種だと思います。

    物理学では、完全に証明されていない事実に基く場合は、証明されるまでは仮説扱いですが、 エンジニアリングの場合は、仮説としての事実に実用的に問題がなければ、 厳密解との違いは誤差として扱うことで、先に進んでいきます。

    例えば、バスレフの理論の場合、ダクトの動作を厳密に証明するのは容易なことではありませんが、 実用的に、十分な精度が確かめられていれば、その仮説を元に進めていきます。
    多自由度バスレフは、あくまでも工学的に開発されているので、断熱圧縮工程における温度変化などは、 考慮していないし、振動板やダクト内空気塊の変位と復元力の関係は線型近似しています。
    ですから、あまり極端な設計の場合にはモデル誤差も増えます。
    問題なのは、そうした誤差があることを承知しているかどうかということです。

    オーディオ界を見て感じるのは、エンジニアマインドをあまり見ないことでしょう。
    定性的な表現を多用したマーケティングばかり。
    音が良いって?
    それは、井戸端会議だけで結構。
    評価は数字でいきましょう。


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